高齢者の漫然操作をどうやって防ぐか

高齢者の運転ミスによる事故のニュースが目立つ。これらニュースに対して、「高齢者こそMT(マニュアルトランスミッション)に乗るべきだ」という論調の意見を目にすることがある。

今回はMT車について着眼してみた。若干、先のエントリーと内容が被るが、ご了承いただきたい。

さて、果たしてお年寄りがMT車両に乗れば、操作ミス事故は根絶できるのだろうか。

そういう面もあるだろうし、そうじゃない面もあるだろう、というのが筆者の考えである。ニュースによれば、事故の原因はほとんどがAペダルとBペダルの踏み間違いである。確かにMT車両なら踏み間違っても反射的にCペダルも踏むだろうから、AT(オートマティックトランスミッション)車両でのそれよりも被害を軽減できるかもしれない。しかし乗り慣れて惰性で操作してしまう可能性はATもMTもそれほど変わらないとも思う。それよりも問題は「漫然操作をどうやって防止するか」ではないか。だから筆者は日本国内一律に○○歳以上の人間はMT車両しか運転を許可しない…というのは、極端に言えば高齢者いじめだと思う。

バスも電車もタクシーもあるじゃないか、という意見もある。しかし公共交通機関だけで生活が成り立つのはごく一部の都市部だけの話であり、語弊を恐れずに言えば、田舎に行けば行くほど高齢者は自家用車無しに生活することが難しくなる(いや、高齢者に限った話じゃない)。この場合の「生活」とは、日々の買い物だったりお役所や病院に行くことだったり知人の家に遊びに行ったりであり、筆者の実感としては、身体機能の衰えた高齢者が公共交通機関だけで日々生活できる場所は、日本にはほとんど無い。とある地方の政令指定都市ですら、クルマで30分も走れば自家用車無しの生活が考えにくい地域ばかりだ。食材の宅配や家事代行などのサービス業種の利用も選択肢としてはあるが、裕福な人ばかりではない以上そのような代行サービスに高齢者が生活すべてを委ねることは事実上不可能だ。

つまり都市部以外の地域で生活の質を維持しようと思うと、自家用車は不可欠であり、それに代わるサービスにおいて飛躍的な環境改善は当面考えにくい。○○歳以上の高齢者はタクシー乗車は無料くらいのことをやらないと、買い物にも行けない通院もできないというお年寄りが日本中に溢れることになる。それに一度でも覚えてしまった「移動の自由」を手放す苦痛は想像するにあまりあるだろう。

自動運転はその点もっとも期待できる光明である。しかし現状の開発に関するニュースを見る限りでは、相当に交通インフラが整備された環境でないと機能しなさそうだ。あぜ道とあぜ道の間を走る未舗装路を安全に目的地まで自走できるようになるには、あと何年かかるのだろうか。あきらめずに開発は続けてほしいが、ここ数年で導入できる解決策ではない。

※筆者個人としては自動運転は歓迎しかねるが、移動の道具としての選択肢のひとつだとは思う

今後100年くらい、お年寄りは今よりももっと増え続ける。筆者もすぐにその仲間入りである。現状を鑑みれば自家用車の操作ミスによる事故は増えこそすれど減りはしないだろう。だから今できることからやってみるしかないと思う。

「高齢者はMT車両を運転する」
冒頭に書いたとおり現実的にはある程度効果があると思う。ただ買い替え補助金制度みたいなのはとてもじゃないが期待できない。ATからMTへ乗り換えてどれくらいの防止効果があるのか、大規模調査と研究(とその成果発表)が必要だろう。今のところこの考えに賛同してくれる高齢者が自己責任・自己判断でやってもらうしかない。事故防止対策として即効性は低い。

「AT車両の運転方法として左足ブレーキを取り入れる」
これは新聞の投書欄で読んだ高齢者の意見である。右足一本に加速と制動を任せているから操作ミスが起こるのだ、という論理。実際のところこれは理にかなっていると筆者は考える。しかしATからMTへのスイッチ同様、人間、現状よりも手間や面倒が増える方法を選べないものだ。同時に左足ブレーキは意外と高等技術だとも思う。「高齢者はMT車両を運転する」案同様に、意識の高い人だけが挑戦する選択肢だと思う。

「講習・試験を制度化する」
一定年齢に達した運転免許保持者に対しては、講習や免許維持のための試験をもっと頻度を高くして実施してはどうだろうか。試験の内容も高齢者の認知能力減を指標化できる内容に工夫が必要だ。半年に1度は大げさだし、1年に1度でも受講・受験する人にとっては大きな負担になるだろう。しかし自分で免許返納を決意するのは並大抵ではないと推測する。何らかの納得できる基準で強制的に免許失効というのも、選択肢のひとつではなかろうか。

「ドライバー環境を改善する」
筆者は年間100台も200台も新車の試乗をする自動車ジャーナリストではないが、これまで試乗してきた経験で言うと、日本国内で販売されているB,Cセグメント車の運転環境は酷いと思う。実用的速度域でドライバーの意志が忠実に具現化される運転性能、ドライバーの着座環境を作れば、漫然と運転する機会が減り、操作ミスも抑止できるのではないか。

日本国内交通法規の範囲内(あるいは倫理上)では破綻しないが、現実的には旋回性能も制動性能も実際の道路状況で必要な性能に達していない。その分は運転手が知らず知らずのうちにリカバーしているのである。そのリカバー分は当然精神的・肉体的疲労として顕在化するし、そういう「運転手の生理的感覚とズレている車両」ばかり運転していては、鋭敏な運転感覚が養われるわけがない。加えて書けば、良質な運転環境にATかMTかは関係ないとも思う。

こういう改善を日本のメーカーがすぐに本腰を入れてやってくれるとは思えないが、しかし法的強制力も必要とせず、メーカーがやる気になればやれてしまうのも事実である。実際にはユーザーが声をあげていくしかない。

先般の事故のニュースを見聞きするにつけ、被害者も加害者も気の毒で仕方ない。70歳や80歳を過ぎてから過失致死の罪を背負うなんて過酷すぎる。

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