世界各地でたびたび歴史的価値があるにもかかわらず数十年に渡って放置された、いわゆる「納屋物」と呼ばれるクラシックカーが発見されることがある。今回もフランスのとある地下駐車場から20年放置されていた1989(昭和64/平成元)年式のフェラーリテスタロッサが発見され、現在オークションで競馬にかけられている車がある。
このテスタロッサは、フランス東部ミュルーズ在住のジャック氏がフェラーリの正規ディーラーからが新車で購入し、以来氏によるワンオーナーで所有され、2012年に彼が亡くなると娘に形見として遺贈された車両であるという。
それからテスタロッサはワンオーナーとは言えぬとも同一の家族が所有し続けてきた素性の明らかな車両であったが、残念ながら娘は車に興味がなかったようで、彼女が運転することも洗車することもなかったという。
競売業者のArtcurialによれば、この車が最後に運転されたのは2003年(平成15年)のサントロペへの旅行で走行したのが最後と伝えており、走行距離は22,433kmでそこそこ走行していたようである。ただし、幸か不幸か、それ以降は屋根付きガレージの中に放置されていたためかホコリまみれで外装はリペアが必要な状態であるものの、車内はカバーが掛けられ紫外線からも守られていたためか素晴らしい状態にあるとのこと。
写真では内装のベージュのタン革は驚くほどしっかりした状態であり、オーダーメイドとみられる真っ赤な跳ね馬のカーペットも色あせておらず、取扱説明書やメンテナンス記録の入ったカバー、そして純正工具の入ったスケドーニ製の黒革のケースは、このテスタロッサの歴史的な魅力を示唆している。
ただしすべてが完璧というわけではなく、やはり20年間に渡る無メンテによるダメージは外装・内装ともに出ており、入念な洗車とコーティング、そしてエンジン内部はじめ内燃機関のダメージも考えられ、必然的にフルオーバーホールが必要となるのは必須だろう。
そして相手はフェラーリのV12、費用も相当かかることは想像に難くない。
アールキュリアルによれば、このテスタロッサは購入者自らこの車のオーバーホールも経験できる「類まれな機会」と呼んでおり、本体落札額が安ければ場合によってはお得な買い物になるとしている。
この車は7月2日のルマン・クラシックセール2022で70,000〜110,000ユーロ(約990万円〜1,570万円)で落札されると推定されている。
フェラーリ・テスタロッサは、1984年10月のモンディアル・ド・ロトモビルで発表され、記者発表はパリのシャンゼリゼ通りにあるキャバレー「リド」で行われた。前モデルの512BBiからフラグシップの座を引き継ぎ、車名はそれまでの数字とアルファベットの組み合わせではなく、往年の名レーシングカーの車名をリバイバルさせた。「テスタロッサ」という車名も1960年代の250テスタロッサ、または500テスタロッサに由来し、それらと区別するため新テスタロッサとも呼ばれた。これら同様、名前の由来「テスタ(頭)ロッサ(赤い)=赤い頭」からカムカバーは赤く塗られている。
ボディの仕様は生産時期によって仕様が変更されており、映画「マイアミ・バイス」でおなじみの初期型とされる1985年モデルは、ホイールが16インチのマグネシウム製ボルトによるセンターロック方式とされ、ドアミラーも運転席側ミラーのみにイタリア本国の法規に従ってAピラーの中ほどの高さに配置していたため、オーナーらが助手席側の通常の根本位置にミラーを追加した左右非対称なモデルも存在している。
1986年に改良を受けた中期型モデルでは、前述のミラーを一般的なAピラー根本に位置を変更。またルームミラーの位置も初期型のセンターコンソール前方からアームで吊り下げて固定するタイプから、フロントガラスに直接貼り付けるタイプに変更された。
1988年モデルの半ばにビッグマイナーチェンジが行われ、後期型とよばれるモデルにはサスペンションが再設計、アライメントも変更され、ホイールの固定方式をセンターロック式から一般的な5穴ボルト固定式に変更。そして1992年に後継車種となる512TRが発表され生産終了となっている。
エンジンは4.9リッター水平対向12気筒(厳密にいえば水平対向エンジンではなくバンク角180度のV型12気筒エンジン)。
輸出地によってスペックが変わり、イタリア本国や欧州モデルは390馬力/6,300回転、トルクは50.0kgm/4,500回転であるのに対し北米・日本向けモデルは排ガス対策によって約10馬力ダウンの380馬力/5,750回転、トルクが48kgm/4,500回転。さらにギア比も交通事情に合わせ1速および2速が低くされるなど、各国の国情や法規にあわせ仕様が異なっていた。
日本仕様の最高速度は290km/h、0-100km/hが5.8秒であった。
source:ARTCURIAL